2012年08月14日

消費税に対する大きな誤解。「益税」は世間で考えられているほど大きな額ではない

消費税の「益税」問題について誤解が多いので一言。こちらの記事「あなたが支払った消費税は税収にはなりません。私の小遣いになります」http://blogos.com/article/44738/)の間違いを見ていきます。

ポイントは2つあります。

  1. 「純粋なギャラ」とは大きな勘違い。フリーランスのギャラには消費税が含まれている。「私は消費税を請求していません」と言っても、実際は消費税込みで処理されている。
  2. 売り上げ1000万円以下のフリーランスが消費税を受け取ったら、「その分は丸儲けになる」というのは間違い。仕入れ分が控除される他、所得税などの税額も違ってくるから、「益税」なんてほとんどない。

みなさんが近くの個人商店で買い物をしたとしよう。総額1万円の買い物をしたら、5%だったら1万500円だが、10%になったら1万1000円になる。1000円分は消費税分だ。しかしこの個人商店の年間売上高が1000万円以下なら、客からとったこの消費税は納める必要はない。堂々と合法的に消費税として客からとった金を、自分たちの所得にできるのだ。

課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除されます。受け取った消費税を納める必要はありません。これを「益税」と言います。これは正しい。

私が編プロに勤めていた頃、外注のデザイナーやカメラマンやライターは、消費税を請求してくる人とそうでない人がいる。

これはまったくの誤解です。どんな取引にも消費税は課税されます(一部例外を除く)。消費税分を請求書に明記しない場合、ギャラに消費税を含んだ形で請求しているということです。請求している本人は「消費税は上乗せしていない」と言い張るかもしれませんが、請求された側はそのギャラを消費税込みとして処理しています。

例えば純粋なギャラの総額が800万円だったとする。
そこで消費税5%を請求すれば40万円プラス。10%になるとなんと80万円!も所得が増えるのだ。

「私は売上高1000万円以下なので消費税はいただきません。だから800万円の『純粋なギャラ』だけを請求します」と本人は主張していても、『純粋なギャラ』というのは本人の思い込みです。

私はずっとフリーライターとして出版業界で働いてきましたが、ほとんどの取引先は消費税込みで原稿料が処理されていました。支払い明細に消費税分を明記する出版社はほとんどありません。

ギャラを支払う会社の立場になって考えてください。たくさんあるフリーランスの取引先について、それぞれ「おたくは売上高1000万円以上で消費税を支払っていますか?」なんて調査するわけにはいかないでしょう(少なくとも私は取引先からそんな調査を受けたことはありません)。取引先ごとに「ここは免税事業者、こっちは課税事業者」なんて区別をして納付税額を計算するとなったら大変なことです。

消費税を外枠で請求するか、ギャラに含めた形で請求するかは、業界の慣習や取引先との力関係で変わってくると思います。私の経験ですが、売り上げが増えて課税事業者になったとき、「今後は消費税を上乗せして欲しい」と取引先にお願いしたところ、「うちは消費税込みでやっています。請求書に消費税分を書いてもかまわないが、単価はこれまでと同じにしてください」と言われたことがあります。

そういうわけで、「私は売り上げ1000万円以下なので消費税を請求していません。私は正直者です」と本人は思っていたとしても、実際はギャラに消費税が含まれていて、形の上ではそれを着服しているのです。その是非は後で考えますが、「益税」の額は世間で思われているほど大きくありません。

でも今年からフリーになり、しかも消費税増税となれば、万が一、消費税を請求せず、年間売上高が1000万円超えてしまったら、そこから自分で消費税を5%なり10%なり、支払わなくてはならない。

多分超えないけど、どうなるかわからないから、これは恐ろしいリスクだ。ましてや1000万円以下だろうが何だろうが、請求してもいいことになっているのであれば、(というか請求しなければならない、という言い方が正しいのかも)消費税を請求した方がいいだろう。

消費税の納税義務があるかどうかは、個人事業者の場合、前々年度の売り上げによって決まります。つまり、2年前の売り上げが1000万円を超えていれば、今年の売り上げについて消費税を支払う必要があります。2年前が1000万円以下なら免税事業者です。

今年からフリーになった人は、2年前の売り上げがないわけで、初年度は消費税の支払い義務はありません。ただし、開業と廃業を繰り返すことで消費税の支払いをのがれようとする悪い人が多いため、このあたりの判定基準がちょっと変わる予定です。

だから、「今から請求する売り上げについて、消費税の支払い義務があるかどうか分からない」ということはありません。2年前の売り上げを見れば、はっきりします。

ちなみに1000万円というのは税抜きの売上高のことです。消費税込みで請求書を書いている場合(要するに消費税を意識せずに普通に請求書を書いた場合)、売り上げが1050万円を超えたところで納税の義務が発生します。1010万円とか1020万円だったら免税事業者です。微妙なラインのときは注意しましょう。

仮に100万円のギャラをもらうとする。(実際にそんなにかかるとは思えないが便宜上)あなたは私に依頼し100万円で書いてもらえると思ったのに、請求の段階になってあなたは驚くわけだ。「えっ、110万円?!100万円って言ったじゃないか!」と。でも私は事業者として消費税を請求しなければならない。5%なら5万円で済むが10%となれば10万円にもなる。10万円も増えると客も相当な負担になる。

フリーランスの側はもちろん、発注する側も消費税の知識が求められますよね。大きな金額の取引であれば、事前に消費税の取り扱いをきちんと話し合っておく必要があります。

でも法律でそう決まっているのだから仕方がないと、あなたは私に消費税10万円を払う。しかし私の年間売上高が1000万円いかなければ、あなたの払った消費税10万円は、社会保障費なんかに回されるわけもなく、国の借金返済のために回されるわけでもなく、私が10万円分、丸儲けしたことになる。こんなこと、許せるだろうか?

かりに年間の売り上げ(税抜き)が2000万円だったとします。税率10%だったら200万円を納税するわけではありません。

消費税というのは、売り上げから仕入れなどの金額を引いた残りについて税率をかけて納付税額を決めます。小売業で「売り上げは2000万円、仕入れが1900万円」であれば、100万円の10%で納税額は10万円です。もし「売り上げは2000万円、仕入れが2100万円」であれば消費税を納める必要はなく、反対に消費税が戻ってきます。

フリーランスのライターやイラストレーターなら「仕入れなんてないだろう」という話になりますが、仕事のために必要なパソコンだとかソフトだとか電話代だとか交通費だとか、必要経費にたいして消費税がかかっています。これを仕入れと同様に見なして、売り上げから引き算してから納税額を求めます。

ところが、確定申告書の「経費」の中には、消費税がかかるものやかからないものが混在しています。たとえば、家賃は消費税がかかりません。だから、小規模な事業者の場合、簡易課税制度というのが設けられていて、売り上げの一定割合を仕入れとみなして計算できます。

サービス業のみなし仕入れ率は50%ですから、年間の売り上げ(税抜き)が2000万円であれば、1000万円が仕入れとして控除されるので、残る1000万円に税率をかけて納付税額を求めます。だから、税率10%になっても納税すべき税額は100万円です。

では、売上高(税抜き)1000万円のフリーランスを考えてみます。本来納付すべき消費税の額は、「みなし仕入れ率50%、税率10%」の場合で50万円です。しかし、売り上げ1000万円以下だと免税事業者なので、50万円は益税となります。

「益税はけしからん。私はちゃんと申告して払うべき税額を支払います」という場合、実際の負担はどうなのか。個人事業主として支払った消費税は損金として経費と同じように処理できます。ということは、事業所得が50万円減るということで、それに応じて所得税や住民税、国民健康保険料が安くなります。所得控除や住所によって負担が違ってきますが、おそらく50万円所得が減ると、税/保険料の負担は20~25万円は減るでしょう。

ということは、1000万円のフリーランスであっても、実質的な「益税」の額というのは25~30万円くらいだと思います。現在の税率5%であればその半分と見ていいでしょう。10万円をちょっと超えるくらいです。みなし仕入れ率がもっとも低いサービス業でこの数字ですから、みなし仕入れ率80%の小売業であれば「益税」なんて雀の涙ほどの額です。

1000万円を境にして納税義務を免除した理由は、事務作業の負担を軽減するためです。徴税コストもかかるわけですし、どこかで免税のラインを作らなければなりません。1000万円という水準はフリーランスの立場から見ると高いように見えますが、実質的な「益税」の額から考えると十分納得できる程度だと私は思います。

しかし、今後税率が15%、20%と上がっていくなら、無視できないレベルになるかもしれません。私は消費税のあり方を全面的に見直して、インボイス方式に移行すべきだと考えています。

サラリーマンが消費税増税から自衛するには、会社の正社員ではなくフリーランスの契約に切り替えれば、毎回給料に消費税分10%を請求できることになる。そうすればこの先、消費税が20%になったとしても、給料も20%増えるということか。

給与には消費税はかかりません。ですから、税率が上がってももらえる額は増えません。

フリーランス契約に切り替えた場合、当然のこと消費税を請求できるでしょうが、取引先との力関係がありますから、実質的な収入が増えるかどうかはわかりません。また、フリーランスとなれば会社員のときに受けられた手厚い保護がすべてなくなってしまうわけで、会社員のときにもらっていた給与の最低でも2倍はもらわないと割に合いません。そういう条件闘争ができる人でないとフリーランスになるのはやめた方がいいと思います。

切りがないので今日はここまで。長い記事を最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。私は税理士ではないので、もし誤解や間違いがあったらご指摘くださいm(_ _)m

マンガと図解 新くらしの税金百科〈2011‐2012〉 マンガと図解 新くらしの税金百科〈2011‐2012〉
財団法人納税協会連合会

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