2013年02月25日

老後の備えで国民年金基金だけに頼るのは危険!

近ごろはフリーランスの方に会うたびに「確定拠出年金」(以下、DC)をおすすめしています。あいさつ代わりに「老後の備えに何かしてらっしゃいます?」と質問するのですが、「国民年金基金」(以下、基金)をやっている方はたまにいらっしゃいますが、DCをやっている方はほとんどいません。

でも、基金だけだとちょっとリスクがあります。毎年秋にニュースになるのですが、基金は運用難で積み立て不足が1兆円を超えています(http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC23017_T21C12A0EE8000/)。加入者から集めた掛金を運用して将来の支払いにあてるわけなんですけど、低金利や株価低迷で運用がうまくいかず、本来持つべき積立金から35%も不足しています。運用状況について詳しくはこちらのページで(http://www.npfa.or.jp/jigyo/finance/)。

すぐに破綻することはなくても、10年後、20年後はどうなるか分からない。現在のままデフレが継続するとまずいでしょうね。積み立て不足を解消できず、どこかで破綻するでしょう。掛金が丸々ムダになることはないでしょうが、将来にもらえる額が減る可能性があります。反対にインフレになれば金利や株価も上がるでしょうから積み立て不足は解消するはずですが、そうすると将来に受け取る年金の実質的な価値が減ってしまいます。どちらに転んでも明るい未来がのぞめない。物価が上がらずに株価だけ上がれば最高なんですけど…。

だから、老後の備えを基金だけに頼るのは危険です。小規模企業共済や確定拠出年金(DC)もあわせて加入することをおすすめします。もし基金がこけても被害を最小限におさえることができます。こちらの記事でも書きましたが、DCは口座が個人別に分かれているので制度の破綻を心配する必要がありません(http://moneylab.ldblog.jp/archives/51870361.html)。資産運用で分散が大事なのと同じで、性格が違う複数の制度を利用することでリスクをおさえることができます。

ならば、基金なんてやめてしまった方がいいのか。原則として基金は途中でやめることができず、口数を減らすしかないというのが建前です。それに基金は65歳になって受け取りが始まると、一生涯、死ぬまで受け取ることができるんですよね。これが他の制度にはないメリットです。月6万8000円の上限いっぱいまで基金に加入しているなら、その口数を少し減らしてDCに振り向けた方がいいと思います(そもそも、掛金には「基金とDCを合計して月6万8000円」という制限があり、基金に上限まで入っている場合、DCに加入するなら基金の口数を減らさなければなりません)。

これから加入する人は、まずDCに入る。そして、余裕があるなら(および小規模企業共済)にも入るというかんじでしょうか。その場合でも基金を中心に構成するのでなく、DCをメインに考えた方がいいと思います。 DCへの加入を考えている方はこちらの本が参考になります。


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2013年02月21日

時代の流れは「フリーエージェントから組織人間へ!」

会社のような組織にしばられる働き方を古いものとして、フリーランスやフリーエージェントという新しい働き方を賛美する人って多いですよね。そうした人のバイブルとも言えるのは、ダニエル・ピンク氏の「フリーエージェント社会の到来」という本です。どういう中身なのかはオビを見れば一目瞭然です。

「組織人間からフリーエージェントへ!」
「すでに巨大企業の時代は終わった」
「アメリカ社会ではすでに、働くほぼ四人に一人が、なんらかの意味でフリーエージェントであるという」
「いますぐフリーエージェントを宣言し、走り出すべきなのだ。大事なのは夢をもつことではない。行動することなのだ」

では、日本で「フリーエージェント」ってどれくらいいるんでしょうか。新しい働き方を選ぶ人は増えているんでしょうか。

ダニエル・ピンク氏は、フリーエージェントは「フリーランス」「臨時社員」「ミニ起業家」という3つのタイプがあるとしています。そして、フリーランスの例としては「配管工や経営コンサルタント、トラック運転手、グラフィックデザイナー、コンピュータープログラマー……」と列挙しています。要するに企業に雇用されていない人を指すわけで、日本での自営業に近いものだと言えます。

日本はフリーエージェント後進国?

総務省統計局が実施している「労働力調査」によると、平成24年(2012年)の就業者数は6270万人、そのうち自営業主・家族従業者は739万人であるとのこと。比率にして11.8%がフリーエージェント、だいたい働いている人の8人に1人がフリーエージェントということになります(http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/index.htm)。

この数字を見ると、アメリカに比べて日本は遅れているように見えますね。アメリカは4人に1人がフリーエージェントとして自由に働いているのに、日本ではその半分にすぎません。みんな会社にしばられているのです!

…という見方は、大きな間違いです。かつての日本はフリーエージェント大国でした。下のグラフを見てください(http://www.cao.go.jp/zeicho/siryou/pdf/kikaku4kai4-3_06.pdf)。これは過去の労働力調査を元に作成されたグラフで、形態別の労働力人口の推移を表しています。

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(画像をクリックすると別ウィンドウで開きます)

グラフを見ると自営業者の比率は戦後一貫して下がり続けていることが分かります。1953年にはなんと56.5%が自営業者でした。1985年でも25.1%もあります。つまり1985年は4人に1人がフリーエージェントでした。まあ、自営業には農林漁業も含んでいるので、時代をさかのぼるほど自営業の比率が高いのは当然の話です。

しかし、農林漁業を除いても自営業率が下がっているのは確かであり、世の中は「組織人間からフリーエージェントへ!」とはまったく逆の道を進んでいるようです。確かにデザイナーやプログラマーなど高度な専門性を活かしてフリーランスとして働く人は増えているかもしれませんが、全体としてはごく一部の動きというしかなさそうです。

他の先進国も自営業率は低下している

ダニエル・ピンク氏の本では玄田有史氏が解説を書いていて、その中でも日本の自営業者が急速に減少しつつあることが触れられています。玄田氏は「農林漁業以外の分野で自営業が減少している日本は、先進国としては得意な存在である」と述べ、その要因として大企業志向や中央集権的な政治システムなどをあげています。

では、諸外国の自営業率はどうなのか。内閣府が出している年次経済財政報告の中にグラフがあります(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/pdf/p03012_1.pdf)。

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確かに日本は自営業の減り方が急ですが、他の主要先進国も減少傾向にあるのは同じです(ドイツを除く)。さらに農林漁業を除く自営業率について見ると、日本はけっして低くありません。ちなみに年次経済財政報告の中では自営業率の低下について何ページも割いて考察されているので、この分野に興味があるかたは是非ご覧ください(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/11p00000.html、第3章/第1節「企業活動と多様な就業形態」)。

ひとつ疑問に思うのが、ダニエル・ピンク氏はアメリカでは4人に1人がフリーエージェントだと書いているのに、このグラフだと自営業率は10%以下しかないところ。データの出所はOECDだからけっして怪しいものではないし、その差の15%はいったいなんなんだろう。たぶんダニエル・ピンク氏は「ミニ起業家」「臨時社員」もフリーエージェントの枠の中に含めているので、そこで差が生まれてくるのだろうと推測しています。

私は労働問題の専門家じゃないのであまりこの問題に深入りしたくないのですが、実感として「組織人間からフリーエージェントへ!」という大きな流れがあるようには思えないんですよね。だから、単純に「会社なんてもう古い!」なんて考えるのはどうかと思います。


でも、私はフリーエージェントという生き方は好きですよ。なんかダニエル・ピンク氏のことを悪く書いているように見えるかもしれませんが、「フリーエージェント社会の到来」は名著だと思います。そして、フリーエージェント社会が実現してくれた方がいいなと思っていますし、フリーエージェントの道を選ぶ人がいれば応援したいです。

玄田氏は解説で岡本太郎氏の言葉を引用しています。

自分は迷ったら、必ず危ない方の道を行く。だってその方が面白いじゃないか。

せっかくの一度しかない人生なのだから、迷ったときは本当に自分が進みたい道を選んだ方がいいですよね。フリーエージェントという道はけっこう危険に満ちていますが、きちんと準備をすればリスクをある程度は軽減することができます。このブログでは今後もフリーエージェントが生活で安定を得られるための情報を提供していきたいと考えています。

最後に宣伝ですが、独立を考えている人向けのコンサルティングもやっています(http://www.moneylab.jp/service.html)。


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2013年02月19日

配当控除の落とし穴。フリーランスが確定申告で配当控除を使うとかえって負担増になることも

株をやっている方なら「配当控除」をいう言葉をご存じかもしれません(http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1250.htm)。株の配当や投資信託の分配金はあらかじめ税金を引いてから支払われています。配当控除とは税金の二重取りを防ぐためのもので、確定申告を行うことによって払いすぎた税金が戻ってきます。

しかし、所得が多い人が確定申告で「配当控除」を利用すると、かえって納めるべき税金が増えてしまうこともあります。「配当控除」を利用するとトクになるのは、課税所得が330万円以下と言われています。詳しいところは楽天家業さんのこちらの記事が分かりやすいです(http://fpdiary.blog23.fc2.com/blog-entry-11.html)。

たくさんの株を持っている人には魅力的な制度ですが、「課税所得が330万円以下でトクになる」というのは会社員の話。フリーランスや自営業の場合はちょっと事情が違います。受けとった配当の分だけ所得が大きくなるので、国民健康保険の保険料が高くなってしまうのです。せっかく配当控除によって所得税と住民税が減ったとしても、国保保険料が増えた分で帳消しになってしまう可能性が高いです。

国保保険料の算定方法は自治体ごとに異なりますし、年齢によっては介護保険料も上乗せされます。そういうわけで住所と年齢によって、配当控除を使うべきかどうかは違ってきます。しかし、たとえ配当控除を使った方がトクだという結果になったとしても、トータルでは思ったほど負担が減ることはないと思います。

実は私も配当控除の存在を知ったとき、喜んで確定申告の配当控除の欄に書き込みました。でも、国保保険料が高くなることを知ったのはずっと後のことです。確定申告の段階では国保保険料のことは分からないし、税務署でも教えてくれないですからね。節税テクニックって思わぬところに落とし穴があったりするので注意しなくてはなりません。


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2013年02月18日

確定申告シーズンの今からできる節税テクニック

今年も確定申告の季節がやってきたわけですが、この時期になるまで何もせずにほったらかしという方も多いのではないでしょうか。そして、売り上げと経費を計算してみると、意外にもたくさんの利益が出ていて、税金の額にビックリなんてこともあります。普通は源泉徴収されていた税金が戻ってくるものですが、利益が多いと反対に税金を支払わなければならないのです。

こんな計算は去年のうちにやっておかないとダメです。年度が替わってからだと節税もくそもありません。去年のうちに大まかな計算だけでもしておけば、予想外に利益が大きくなったときは必要な買い物を先にしておき、利益を圧縮して税金を安くするなんてこともできます。

年度が替わってからできることといえば、見過ごしていた経費を掘り起こすことぐらいでしょうか。たとえば、自宅で仕事をしているフリーランスであれば、家賃や光熱費、電話代などの一部を経費とすることができます。もし今まで経費として扱ってこなかったのであれば、今回から経費として計上しましょう。他にもこのように経費として扱えるものがないかを探します。

あともう一つ、収入がない家族や親戚を扶養親族として申告するという手もあります。もっとも身近なのが、年金暮らしの親や祖父母でしょう。70歳以上で所得が一定以下の場合、扶養控除の額は58万円(同居)、48万円(非同居)です。それだけ課税所得が小さくなりますので、所得税&住民税の税率が20%であれば、税金が11万6000円(同居)、9万6000円(非同居)も安くなります。これは扶養親族が一人の場合で、もちろん複数人だとそれだけ控除額が大きくなります(http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1180.htm)。

どんな人を扶養親族として扱える?

扶養親族として扱えるかどうかの目安は、(1)生計を一にしていること、(2)所得金額が年38万円以下であること、の2つです。

まず「生計を一にしている」ですが、自分と同居している必要はありません。生活費などを援助しているのであれば、生計を一にしていると認められます(http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1180_qa.htm)。扶養の実態がないのに扶養親族として申告した場合、税務調査に入られたときに問題になるかもしれませんね。しかし、確定申告の段階では、仕送りなどの事実を証明する書類などを添付する必要はありません。そういうことです。

次の条件、「所得金額が年38万円以下」というのは収入が38万円ということではありません。年金暮らしの65歳以上の場合、年金控除として120万円が認められるため、年金収入が158万円以下であれば扶養親族として扱える可能性があります。国民年金しかもらっていないなら間違いなくこのラインに収まります。厚生年金だとちょっと微妙ですね。遺族年金は非課税なので、もらっている額が多くてもカウントされません。たとえば、お父さんが先に亡くなり、お母さんが国民年金+遺族年金を受給しているとき、所得としてカウントされるのは国民年金の部分だけです。

年金収入の額は「公的年金等の源泉徴収票」という書類が今年1月に送られてきているはずです。そこに記載されている「支払金額」の欄を見てください。ここが158万円以下であれば扶養親族と扱えるかもしれないので、税務署にぜひ問い合わせてみてください。

なお、扶養家族として扱えるのは「6親等内の血族及び3親等内の姻族」なので、自分の親や祖父母はもちろん、おじさん、おばさん、きょうだい、いとこ、はとこ・またいとこでも大丈夫です(年齢によって控除の額は違ってきますけど)。手続きは簡単。確定申告書の裏に扶養親族の名前と続柄、生年月日を記入するだけです。

注意点もいくつかあります。たとえば、お母さんを扶養親族として申告したいなら、お父さんと話をつけておきましょう。どちらか一方しか扶養控除を受けられないのです。もし両方で扶養親族として申告すると、間違いなく税務署から問い合わせがきます。

また、今までお母さんがお父さんの扶養親族となっていたのを、自分の扶養親族として申告する場合、お父さんの税金が高くなってしまう可能性があります。おそらく現役で働いている人の方が所得が多いので、あなたの扶養親族にした方がトータルで見るとトクになるはずです。でも、そのあたりは事前に家族の間でしっかり話し合っておきましょう。勝手にやると後でトラブルになります。

税金の話はいろいろ難しく、ここでは制度の一部しか紹介していません。思わぬところに落とし穴があるかもしれないので、正確なところは税務署に問い合わせるなり、税理士に相談してみてください。


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フリーランスが将来に備えて資産運用するためのベストな方法とは

フリーランスが老後の備えをするための制度として「国民年金基金」「確定拠出年金」「小規模企業共済」の3つがあります(http://moneylab.ldblog.jp/archives/51644885.html)。この3つにバランス良く加入するのがおすすめだとこれまでも紹介してきましたが、今まで何もしてこなかった人にとってはハードルが高いようです。

もし老後への備えとして何か一つ始めるとすれば、それは「確定拠出年金」だと思います。確定拠出年金とは、毎月一定額の掛金を支払い、それで自分の好きな金融商品を購入するもの(投信の他、定期預金、年金保険なども選べる)。フリーランスの場合、月6万8000円まで積み立てができます。そして、毎月支払う掛金で金融商品を買い増していき、60歳を過ぎてから老後の資金として引き出すことができます。制度を利用するメリットについては、「フリーランスなら投資信託を2割引で買える超おトクなシステムを利用できる」(http://moneylab.ldblog.jp/archives/51825512.html)もご覧ください。

国民年金基金と小規模企業共済の2つの弱点

国民年金基金と小規模企業共済の弱点は、老後に受け取れる額が固定されているところです。今のデフレが続くならいいんですが、将来的にインフレで物価が上がるなら老後にもらえる額の実質価値が小さくなってしまいます。特に20代や30代ならリタイアするのは何十年も先のことで、そのときの物価が現在の2倍や3倍になっている可能性も十分にあるわけです。その点、確定拠出年金なら運用のしかたによっては物価上昇率以上に受取額を増やしていくことが可能です。

もうひとつ、国民年金基金と小規模企業共済には弱点がありまして、制度が破綻するリスクがゼロではないというところです。どちらの制度も、加入者から集めた掛け金を運用して積み立てておき、加入者のリタイア後に支払うという仕組みになっています。ところが現在、どちらも運用成績がぱっとせずに積立金が不足している状態です。このまま運用がうまく行かない状態が続けば制度が破綻して、期待していた額がもらえないという可能性もあります。

その点、確定拠出年金は完全に口座が個人ごとに分かれているので、制度が破綻するという心配はありません。その代わりに運用成績については加入者が責任を持つ必要があり、運用に失敗すると払い込んだ掛け金を下回る額しか受け取れないこともあります。私が3つの制度にバランス良く加入することをおすすめしているのも、それぞれに長所と短所があり、3つを組み合わせることでリスクを最小化することができると考えるためです。

確定拠出年金は使わないのはソンな制度

どれか一つ選ぶとすれば「確定拠出年金」だと私は思うわけですが、実は3つの制度の中では加入するのがもっとも面倒です。確定拠出年金は証券会社や銀行、保険会社などが窓口となっていて、まずはどの金融機関で加入するかを決めなければなりません。そして、掛金をどのように運用するかを加入時に決める必要もあります。

そういうわけで、昨年に「確定拠出年金の始め方」という勉強会(http://moneylab.ldblog.jp/archives/51846130.html)を開催しましたけど、私の説明の仕方も悪かったのか、せっかく参加いただいたのにまだ加入に至らない方もいらっしゃいます。

確定拠出年金はフリーランスや自営業者にとって、きわめて有利な制度なので利用しないでおくのはもったいない。運用方法を決めることができないなら、とりあえず定期預金にしておいてもかまいません。確定拠出年金の掛金で積立定期預金をするということは、所得税&住民税の税率が20%の場合、月4万円の負担で月5万円の積立ができるということになります(5万円の掛金の20%にあたる1万円分だけ税金が安くなるため、毎月5万円の積み立てをする場合は実質負担が4万円ですみます)。

長期的には投資信託に切り替えた方がインフレリスクにも対処できるのでオススメではあります。しかし、「元本割れの可能性がある投資信託にどうしても抵抗がある」「どれを選べば良いのかよく分からない」という場合、まずは定期預金で確定拠出年金を始めてもいいでしょう。普通に銀行に積み立てるよりもずっと有利です(ただし、60歳を過ぎるまで引き出しはできません)。

確定拠出年金についてもっと詳しく知りたい方は、以下の本がおすすめです。あやしげなタイトルの本ですが、中身はごく真面目な確定拠出年金の入門書です。また、日程は決まっていませんが、「確定拠出年金の始め方」の勉強会もまたやりたいと思っています。

 

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2013年02月17日

フリーランスと会社員とどっちが恵まれている?

「フリーランスがサラリーマンより不利だという誤解を解いてみた」(http://d.hatena.ne.jp/freestrong/20130127/1359234356)という記事があることを教えてもらいました。

フリーランスと会社員とどちらが恵まれているのか。上の記事にあるとおりに、確かに制度を熟知していれば、フリーランスの方が有利になることがあるかもしれません。でも、「フリーランス最強」というのは違うと思います。絶対的にフリーランスが有利とは言えず、やはり一般的には会社員の方が恵まれています。

フリーランスのメリットを活かすのはけっこう大変

税金については、フリーランスも節税によって税金を安くすることは可能です。いろんなテクニックを駆使すれば、所得税や住民税はゼロにすることも不可能ではありません。でも、そのテクニックがつねに有効とは限りません。たとえば、家族を従業員として給与を支払えば課税所得を減らせますが、これは所得のない家族がいて初めて使える方法ですよね。他にも会社を作ると節税できると言われますが、売り上げがある程度は大きくないと有効ではありませんし、売り上げが見込みより大きく増減するとかえって税金が増えてしまうことがあります。

一方、会社員であれば無条件に「給与所得控除」が認められます。給与の一定割合が経費として認められ、その分だけ課税所得が小さくなり、税金も安くなります。こうなると、どちらが恵まれているかは、個人の好みということになりそうです。自分ですべてをコントロールしたい人ならフリーランスが合っているでしょうし、節税対策などを考えるのが面倒なら会社員の方がいいでしょう。

年金や保険についてはどうなのか。会社員は厚生年金に強制加入であり、しかも年金を金融商品として考えた場合、厚生年金はそれほど魅力的なものでないことは事実です。それに比べて、フリーランスなら自分が好きなように制度を組み合わせて利用できるので、自分ですべて管理したい人には向いているでしょう。

しかし、会社員は厚生年金だけではなく、そこに上乗せする形で企業年金を用意している会社が少なくありません。最近では企業型の確定拠出年金を導入する会社も増えつつあります。さらに病気で長期休業したり退職することになっても最大1年半は給与の一定額が保証されますし(健康保険の傷病手当金)、会社によっては医療費がかかったときに補助がでることもあります。また、業務にかかわる事故や災害で休業をしいられるときは治療費を自己負担する必要はなく、休業中の給与も保証されます(労働者災害補償保険、いわゆる労災)。他にも雇用保険(いわゆる失業手当)はフリーランスにとってはうらやましい制度です。

フリーランスでも公的な制度や民間の保険などを組み合わせればいいのですが、会社員と同じレベルの保証を得るのはかなり大変です。そもそも年金や保険は損得だけで割り切れるものではなく、安心という要素も強いので、その点で一般的には会社員の方が恵まれているように思います。

どっちが恵まれているかは好みで変わってくる

ここまで長々と書いてきたことをひっくり返すようですが、フリーランスと会社員のどちらが有利かを比較することに余り意味はないと思っています。その人の性格や考え方、嗜好によって、どちらが好ましいかは違ってきます。しばられるのが嫌いな人はフリーランスが向いているでしょうし、平均的な安心が欲しいなら会社員がいいでしょう。

でも、「会社をやめてフリーランスになりたいけど、保障がなくなるのは不安。だから、フリーランスとしてやりたいことがあるのにチャレンジできない」という方には、「どちらかが一方的に有利ということはなく、制度の使い方によってはフリーランスの方が有利になることもある」ということをぜひ知っていただきたいです。一度きりの人生なのでやってみたいことをやってみればどうですか?(もちろん勝算があればの話ですけど)

一方、すでにフリーランスとして仕事をしている方は、さまざまな制度を利用して自衛をはかるしかありません。何もしないのと対策をするのとでは税金や保険料が年間数十万円という単位で違ってくることがあります。かりに一年間で20万円を節約できるとすれば、10年で200万円、20年で400万円の差が生まれてきます。

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2013年01月15日

フリーランスが持つ将来への不安は、制度を知ることで軽減される

会社員に比べるとフリーランスとはきわめて不安定な存在で、病気やケガで働けなくなった瞬間に収入は途絶えるし、たとえ健康であっても将来にわたって安定して収入を得られるか分からない。さらに子どもの教育費だとか親の介護といった問題も出てくると大変です。まだ若くて勢いがあるときはいいけれど、ある程度の年齢になると不安が加速度的に増していくことが多いように思います。

でも、さまざまな問題をすべて自分で対処しなければならないと考えるから不安になるのであって、実はしなくてもいい心配をしていることもあります。人生のさまざまなリスクに対して、国や自治体などが支援制度を設けていますし、公的な制度だけで不十分なところは、保険や共済に加入することで備えることもできます。こうした制度を知るだけでも不安が半減するかもしれません。

たとえば、病気やケガで長期入院することになったらどうなるか。日本には「高額療養費」というありがたい制度がありまして、高度な医療を受けたり、入院が長期化したとしても医療費は意外に安くすみます(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/)。

脳梗塞などで何年も働けなくなったらどうなるか。動けないほど症状がひどいなら「障害年金」が出る可能性が高いので収入がゼロになるわけではありません(http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3225)。また、働けない間は毎月定額の保険金がもらえる「所得補償保険」という保険もあります(http://www.firstplace.co.jp/ltd/)。

老後の生活が心配なのであれば、「確定拠出年金」(http://www.npfa.or.jp/401K/)や「小規模企業共済」(http://www.smrj.go.jp/skyosai/)などの制度を活用しましょう。銀行よりもずっと有利な条件で老後資金を積み立てられます。

しかし、フリーランスにとってもっとも大事なのは人的ネットワークかもしれません。やはりいざというときは家族や親戚、友人、仕事仲間などが頼りになります。すべてを一人でかかえこもうとせず、困ったときは互いに支え合えるような関係をきずいておくことが安心につながるはず。もちろん自分ですべき備えをした上での話ですけどね。

人生のリスクへの対処方法については、橘木俊詔氏の「安心の経済学」という本がおすすめです。誕生から引退後まで各ライフステージにおいてどんなリスクがあり、そのリスクに備えるために国や企業などがどういう仕組みを提供し、個人や家族はどう対処すればいいのかを網羅的に紹介しています。ノウハウ本ではないので実生活ですぐ役に立つものではありませんが、「安心とは何か」を考えるきっかけになると思います。


安心の経済学―ライフサイクルのリスクにどう対処するか 安心の経済学―ライフサイクルのリスクにどう対処するか
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