2013年01月10日

フリーランスにとって領収書は金券のようなもの。経費が増えると税金がこんなに安くなる

「領収書を集めて経費を増やすと、税金が安くなる」ということはご存じの方も多いはず。では、「具体的にどれくらい安くなるのか」を意識したことはあるでしょうか。

私がフリーランスになって一年目のこと。「領収書はきちんと保管しておいた方が良い」とぼんやりは分かっていましたが、その重要性は分かっていませんでした。高額な買い物の領収書は保存してあったけれど、本や文房具など普段の細かな出費については領収書をとっていないものが多く、結果として予想外に多くの税金(そして国民健康保険の保険料)を支払うことになってしまいました。

税金の計算をするとき、売上にそのまま税率をかけるわけではありません。売上から経費を引き算して、さらに社会保険料などの「所得控除」を引き算して、その残りの課税所得をもとに税金の額が決まります。下の図をご覧ください。要するに経費の額が多くなれば、それだけ課税所得が小さくなり、結果として税金の額が小さくなります。

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では、経費が1万円多くなれば、税金はどれだけ小さくなるのか。下の表が大ざっぱな目安です。課税所得の大きさによって所得税の税率は変わってきます。課税所得が200万円の場合、3000円(1万円の30%)くらいは負担が減ります。つまり、1万円の領収書は3000円の金券と同じ価値を持つと考えられるわけです。

経費が1万円増えると負担はどれくらい減る?(課税所得200万円)
  税率/料率 軽減額 備考
所得税 10% 1000円 課税所得が200万円の場合
住民税 10% 1000円  
国保保険料 8.5% 850円 東京23区の場合
介護保険料 1.5% 150円 東京23区(40歳以上のみ)
合計 30% 3000円  

課税所得が500万円だとどうなるでしょうか。所得税の税率が20%に上がるだけではなく、このレベルまで所得が増えると個人事業税までかかってくるおそれがあります。すべてを合わせた負担率は45%なので、課税所得を1万円減らすことができれば、税金/保険料はおよそ4500円も減ります。1万円の領収書は4500円の金券に等しいわけです。

経費が1万円増えると負担はどれくらい減る?(課税所得500万円)
税率/料率 軽減額 備考
所得税 20% 2000円 課税所得が500万円の場合
住民税 10% 1000円  
個人事業税 5% 500円 業種により異なる
国保保険料 8.5% 850円 東京23区の場合
介護保険料 1.5% 150円 東京23区(40歳以上のみ)
合計 45% 4500円  

そういうわけで、経費として扱える可能性がある領収書はすべてとっておくことをおくことをおすすめします。領収書が出ないような交通費については、利用額をメモしておきます。次の確定申告に向けてがんばりましょう。

ただし、他人の領収書をくすねて自分の経費として申告したり、白紙の領収書をもらって金額を勝手に書き込んだりするのは脱税行為となります。

(※)国民健康保険/介護保険の保険料は自治体や年度によって異なります。個人事業税は業種によって税率が異なります(事業税がかからない業種もあります)。


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2013年01月08日

フリーランスが青色申告に切り替えると税金や保険料がこんなに安くなる。数百万円もの差が生まれることも

もうすぐ確定申告の季節がやってきます。仕事がらいろんなジャンルのフリーランスの方と話をするのですが、何年もフリーランスとして仕事を続けながら、「青色申告」ではなく、「白色申告」ですませている人も多いですね。そういう私も、独立したころは「青色申告って何? 青と白とどう違うの?」というレベルでした。

「青色申告」とは大ざっぱにいえば、「帳簿と申告書をきちんと作れば、その特典として税金を安くしますよ」という制度です。白色申告でも本当は帳簿を付けないとダメなんですが、青色申告では「複式簿記」というやり方できちんと帳簿を付けた上、税務署に「貸借対照表/損益計算書」を提出する必要があります。

気になるのは、青色申告でどれくらい税金が安くなるのか。青色申告の特典の一つとして、65万円の「青色申告特別控除」があります。要するに経費が65万円分多く計算できるため、課税所得が減った分だけ税金が安くなるのです。さらに連動して国民健康保険や介護保険の保険料も安くなります。

下の図を見てください。税金の額を計算するとき、売上にそのまま税率をかけるわけではありません。売上から経費を引き算して、さらに社会保険料などの「所得控除」を引き算し、その残りの課税所得に対して税金の額を計算します。青色申告を選択すると経費の部分が65万円増え、その分だけ課税所得が小さくなります。

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(※)上の図が当てはまるのは所得税と住民税。国保保険料は計算方法が微妙に違ってきますが、経費が増えると負担が減るという点は同じです。

経費が65万円増えると税金や保険料はどれくらい変わるのでしょうか。下の表が大ざっぱな目安です。課税所得の大きさによって所得税の税率は変わってくるので、課税所得が300万円の場合はだいたい20万円くらいは負担が減ります。課税所得の額が大きければ、税率が上がるので軽減額はもっと大きくなります。

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  税率/料率 軽減額 備考
所得税 10% 6万5000円 課税所得が300万円の場合
住民税 10% 6万5000円  
国保保険料 8.5% 5万5250円 東京23区の場合
介護保険料 1.5% 9750円 東京23区(40歳以上のみ)
合計 30% 19万5000円  
(※)税率/料率は2012年のもの。国保/介護保険の料率は地域や年度によって違ってきます。

これから20年間、フリーランスとして働き続けるとすれば、青色申告に切り替えるとおよそ400万円もの違いが出てきますよね。もしすべて貯蓄に回したとすれば、老後の生活資金の心配は半減しそうですし、リタイアする時期を前倒しできるかもしれません。

しかし、青色申告で申告書を出すには、前もって税務署に届け出が必要です(詳しくはこちらのページをご覧ください。http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm)。今年春の申告にはもう間に合いません。今年の3月15日までに届け出を出せば、来年春の確定申告から青色で申告できます。

青色申告は確かに面倒ですが、そこそこの稼ぎがあるフリーランスなら手間が増えても青色申告を選ぶだけでのメリットが十分にあるはずです。


(※)初出時は個人事業税も青色申告で軽減されると紹介していましたが、個人事業税については青色申告特別控除が適用されません。岡本様、ご指摘ありがとうございました。(2013年1月10日)

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2013年01月07日

フリーランス向けのマネー相談を無料化しました。家計や保険の見直しから資産運用の方法までお気軽にご相談ください

今年もよろしくお願いいたします。2011年にFP事務所をスタートして、今年で3年目になります。「フリーランスのライフプラン」をテーマとして活動してきましたが、今後もこのブログではフリーランスに役立つ情報を継続して提供していきたいと考えています。

さて、昨年はマネー相談を期間限定で無料としていましたが、当面はフリーランスの方は初回相談を無料とさせていただきます。けっして無料をエサにして保険や金融商品を強引に売りつけようというわけではありません。フリーランス専門のファイナンシャルプランナーとしてサービスを向上させるため、事例収集の目的で初回相談を無料化します。もちろん個別の相談内容については秘密を守りますのでご安心ください。

私自身は1999年にフリーランスのライターとして独立し、今年でフリーランス歴は14年になります。深い考えもなく、勢いで会社を辞めてしまったのですが、フリーランス生活を始めてからマネーの知識の必要性を痛感。自分の生活を守ることを目的に資産運用や保険の仕組みなどを勉強しているうちに、ファイナンシャルプランナーという存在を知りました。どうせ勉強するなら徹底的にやろうと考え、ファイナンシャルプランナーの資格を取得しました。

こういう経緯でFP事務所を設立したため、フリーランスの不安定さや心細さは身をもって分かっていますし、それにどう対処すべきかを自分の課題としても考え続けています。フリーランスの方とはこうした問題意識を共有し、共に解決策を見いだすことができればと思いますので、ぜひお気軽にご相談ください。マネー相談の詳しい情報はこちらのページ(http://www.moneylab.jp/service.html)をご参照ください。



2012年12月23日

フリーランスの節税対策。急に売り上げが増えたら、小規模企業共済に加入すると税金を安くできる

フリーランスの一年目でそれなりの売り上げがあったとか、
何年もフリーランスをやっていて急に売り上げが増えたりすると、
次の年は税金や保険料がはねあがります。

まずは所得税。
これまで確定申告をすると源泉されていた所得税が戻ってきたのに、
売り上げが増えると反対に所得税を追加でおさめなければなりません。

また、住民税と国民健康保険は前年の所得で額が決まります。
つまり、今年の所得が増えると、来年の負担が増えるわけです。

そういうわけで、
売り上げが増えたときは今年中に節税の対策をしたいところ。
税金の負担を小さくするには課税所得を減らす必要があります。

課税所得を減らす方法は2つ。
1つ目は仕事の経費を増やすこと。
仕事で使うものがあるなら今年中に購入します。
大きな買い物をするなら今のうちに。

もう1つの方法は「所得控除」を増やすことです。
所得控除とは生きていくために必要な出費は所得から差し引くことができ、
その分だけ課税所得を小さくすることができます。

たとえば、収入がない配偶者や子どもを養っているなら、
人数に応じた一定額を所得から引き算することができます。
今から配偶者や子どもを増やすことはできませんが、
もし年金暮らしの親がいるなら、
扶養家族の扱いにすると税金を安くできるかもしれません。
(ただし親のもらっている年金の額が多いときはこの手は使えません)

国民年金や国民健康保険などの保険料も「所得控除」のひとつです。
保険料が未払いであれば年内に払っておきましょう。

同じように所得から控除できる出費としては、
「国民年金基金」「確定拠出年金」「小規模企業共済」の掛金があります。
しかし、「国民年金基金」「確定拠出年金」は今すぐに加入するとしても、
掛金の支払いは来年になるのでもう手遅れです。

今から対策するなら「小規模企業共済」しかありません。
申込用紙さえ手に入れば、
その日のうちに金融機関の窓口で加入申し込みと掛金の支払いができます。
小規模企業共済の掛金は月1,000円から70,000円の範囲で自由に決められます。
一年分の掛金をまとめて支払えるので、
今年中に掛金を支払えば課税所得を最大84万円を減らすことが可能になります。

課税所得が500万円の場合、
所得税と住民税の税率は30%です。
課税所得を84万円減らすことができれば、
税金が25万2000円も安くなります。

課税所得が1000万円なら税率は43%なので、
36万1200円を節税できることになります。

老後の備えをしながら税金を安くできるのが魅力です。
売り上げが急に増えて、しかも余裕資金が十分にある場合はご検討ください。
ちなみに今年は、金融機関の窓口は12月28日まで開いています。



2012年12月11日

フリーランスのライターを目指す人に知っておいて欲しいこと

フリーライターになりたい人がどれくらいいるのか。ふたたびイケダハヤト氏のネタになりますが、「未経験からフリーランスライターになる方法」(http://blogos.com/article/51787/)という記事を見かけたので、フリーライター歴13年の立場からコメントします。

好きなことだけ書いていては生活できない

フリーライターには大きく分けて2つの種類があると私は考えています。ひとつは「自分の書きたいことを書く人」、もうひとつは「注文を受けてその通りに書く人」です。もちろん2つにきれいに分かれるわけではなく、大部分のフリーライターはその中間に位置して、そのときどきで右に左に行きつ戻りつしながら仕事をしています。

私の場合、「注文を受けてその通りに書く人」に近い側で仕事をしているフリーライターです。ほぼすべての仕事は編集部からの依頼によるもので、自分の方から企画を持ち込むということはありません。「何かいいアイディアありませんか」と編集部から相談を受けて、「こういうネタはどうでしょう」と提案することはあります。自分から動かなくても依頼だけで生活できるだけの売上があるので、「まあ、それでいいか」と流されるまま仕事をしているというかんじです。

私が「仕事はライターです。雑誌に記事を書いたりしています」と自己紹介すると、多くの人が「作家」みたいなイメージを持つようです。サザエさんの隣に住んでいる伊佐坂先生を思い浮かべるのでしょうか。実際は「作家」とはまったく違います。むしろ大田区の町工場でネジを作る「職人」に近いと自分では思っています。

自分の書きたいことを書いているライターもいます。しかし、完全に自分の書きたいことだけで生計を立てられるフリーライターってどれくらいいるんでしょうね。私の周りにはそんな人がいないのでよく分かりません。

正直なところ、興味のないテーマについて書くときはつらいです。「適当に書けばいい」と流せることができればいいんですが、職業倫理とでもいうのでしょうか、引き受けたからには一定以上の品質で納品したいと考えてしまいます。

また、注文を受けて書くからには自分の考えに反することを書かなければならないこともありますし、どう考えてもおかしい変更の指示を受けることもあります。広告の仕事であれば原則としてクライアントの指示通りにやるしかなく、ライターがどうこう言う余地はありません。

これからフリーライターになりたいと思っている方がいるとすれば、フリーライターになってどんな仕事をしたいのかをよく考えてほしいところです。

ちなみに「フリーライターは貧乏」というのも間違った思い込みです。私はフリーライターのかせぎで池袋の近くに一戸建ての家を買いました(住宅ローンはまだ払い続けていますけど)。また、私の知っている範囲に限っても、消費税を納税しているフリーライターが複数名います(要するに売上が年1000万円超)。ベストセラー作家でなくても文筆活動一本で生活することはできます。

フリーライターは目指してなるものではない

私は未経験からいきなりフリーライターになったのではなく、まずは出版社のアルバイトから正社員になって、しばらく雑誌の編集をやっていました。その後、出版社をやめて編集プロダクションに転職し、そこでは出版社の下請けで雑誌や書籍を作るだけでなく、広告やパンフレットなどの制作もやっていました。

編集プロダクションをやめてフリーライターになったのは30歳のころです。特にフリーライターになりたいと考えてやめたわけではなく、とにかく当時の職場を抜けたいという思いが強くありました。そして、なんとなくフリーライターの仕事をしているうちに10年以上がたちました。

自分から営業活動をすることもなく、依頼だけでやっていけるのは、まず出版社や編集プロダクションで知り合った方々のおかげです。そのうちに「××社の××さんから紹介された」「××誌の記事を見た」といったつながりで仕事が増えてきました。

もう一つ、仕事に困らない理由として、編集の経験があると思います。要するに発注する側として何を求めているのかがよく分かるので、細かい注文がなくても求められるものを出せるんですね。

たとえば、ライターには文章能力が必要なように思われていますけど、それはけっしてうまい文章を書く技術ではありません。論理的で意味明晰でさえあれば合格です。文学作品ではないので凝った言い回しなんて求められていません。さっと読んで内容がすっと頭の中に入ってくるのが良い文章です。

また、ライターに求められるのは締め切りを守ること。編集者にとっては原稿がなかなか送られてこないのが最大のストレスですから、スケジュール通りに原稿を書き上げる。完璧な文章で締め切りに遅れるより、ちょっと文章が荒れていても締め切りに間に合わせた方が喜ばれます。このあたりのバランスも編集サイドの経験があるとよく分かると思います。

基本的なスタンスは、編集部が作りたいものを作れるようにライターの立場でベストを尽くすこと。雑誌は編集部のものなので、ライターの名前は出るけれど編集部の意向に沿って書きます。書籍はいろいろですが、注文を受けて書くときは注文通りにやります。広告は言うまでもありません。

そういうわけで、「テーマは何でもいいので書くのが好き」な人であれば、いきなりフリーライターを目指すのでなく、まずは出版社や編集プロダクションに勤めることをおすすめします。そこで何年か仕事をした上で、フリーライターになるかどうかを決めればいいと思います。

また、「このテーマについて書きたい」と具体的な目標があるなら、他の仕事をしながら書いてもいいのではないでしょうか。そのテーマについて書き続けて、それだけで生活できることが分かったところでライター専業になればいい。

フリーライターというのは最初から目指してなるものではなく、「気が付いたらフリーライターになっていた」というものだと思うんですよね。



年収150万円でフリーランスは自由に生きていけるか?

「年収150万円で僕らは自由に生きていく」という本が話題になってるようです。私はこちらのサイトの書評を読んだだけですが(http://www.lifehacker.jp/2012/12/121203book-to-read.html)、「年収150万円」についてフリーランス歴13年の立場から書いてみたいと思います。

年収150万円が通用するのは若くて健康な間だけ

私も20歳代のときは月15万円で十分に生活できると思っていました。でも、それが可能なのは若くて元気なときだけです。「結婚して子どもができたら」「家族が病気やケガで介護が必要になったら」「自分自身が病気やケガで働けなくなったら」「年金をもらう年代になったら」と考えれば、とても月15万円とか年150万円では足りませんよね。

フリーランスという立場で考えたとき、「年収」が何を指すのかも重要になります。売上が150万円なのか、手取り(可処分所得)が150万円なのか。たとえば、国民年金だけでも年で18万円くらいになります。他にも国民健康保険とか住民税とか払わなければならないので、売上が150万円であれば手取りは130万円を切るでしょうか。すると月10万円で生活することになります。

150万円が手取りを指すとしても、かなりきつい生活になると思います。月12~13万円であれば、将来に備えて貯金する余裕もないですよね。フリーランスは退職金がありませんし、国民年金だけで生活するのは無理なので、ずっと働き続けることになります。そして、働けなくなったところで生活保護のお世話になるしかありません。

だから、もし「年150万円をかせげばいいのか」と考えてフリーランスになるとすれば、それは自殺行為に等しいです。あくまで私の感覚ですが、今の日本で結婚して子どもを持とうとするなら、売上が最低でも500万円はほしいところです。これは経費がほとんどかからないライターの場合で、経費がかかる業種ならそれを上乗せする必要があります。

かせぐスキルがなければ自由になれない

もちろん年500万や年1000万円を売り上げるスキルがあって、それで「年150万円しか働かない」という道を選択するならいいと思います。フリーランスをやっていると「かせげるうちにいっぱい仕事をしないと」「この仕事を断ると次はこなくなるかも」みたいな不安があって、どうしても無理に仕事を受けてしまうことがあるんですよね。そんなときに「年収150万円で自由に生きよう」という考え方を思い出すのは良いことかもしれません。

しかし、会社づとめに嫌けがさして「フリーランスになろうか」なんて考えている人が、「年150万円」と低い目標でフリーランス生活を始めると失敗する可能性が高いと思います。そもそも、この本の筆者が年収150万円じゃありません。もっとかせげるだけのスキルがあって、その上で「こう考えればもっと自由になれるよ」と言っているわけです。

批判的な見方ばかりしてきましたが、「金より、つながり!」という指摘はとても重要だと思います。何でも自分でやろうとするから大変なのであって、いざというときに助け合えるパートナーや親戚、友だち、同業者、お隣さんなどがいれば不安感は軽減されそうです。でも、助けてもらうことを前提にして年収が低くても大丈夫と言い切るのはちょっと違う気が。

読んでいない本について書くのはどうかと思いましたけど、年収150万円という数字が一人歩きしそうなのでコメントしてみました。そういえば、何年か前に「年収300万円」という本もヒットしましたが、あれも会社員でこそ成り立つ話ですね。会社員のような保障がないフリーランスだと年300万円でも厳しいです。



2012年10月31日

確定拠出年金の老齢給付金は受け取り方を間違えると多額の税金がかかる

個人型 確定拠出年金(以下、「DC」と略します)の加入者は60歳を過ぎると老齢給付金を受け取ることができます。国民年金とは違って受け取り方を指定できるのがDCの特徴であり、一時金としてまとめて受け取ってもいいし、年金として分割して受け取ることも可能です。年金は5年から20年の間で受取期間を選べる他、一時金と年金を組み合わせてもかまいません。

一時金や年金を受け取るタイミングも選べます。60歳でもらってもいいし、すぐに資金が必要でないなら70歳まで受け取りを遅らせることもできます。ただし、加入期間が10年に満たないときは、受け取りの年齢が最大65歳まで遅れることがあります。

このように受け取り方を自由に選べるのが魅力のDCでありますが、受け取り方によって税金や健康保険料が違ってくるところに注意が必要です。どちらの方法で受け取っても、受取額に応じて所得税や住民税がかかるほか、国民健康保険の保険料もかかってきます。

一時金は退職金と同じく税金が優遇されている

しかし、年金と一時金では税金の計算方法が異なるため、受け取り方によって負担には大きな差が生じます。

どちらで受け取る方がおトクなのか? 年金資産の大きさや他の収入の額によって違ってきますが、一時金で受け取った方が負担が小さくなることが多いようです。一時金は「退職所得」として取り扱われ、税負担について特に優遇されているのです。一時金の受取額から「退職所得控除」の額を引き、その2分の1が課税所得となります。退職所得控除の計算式は次の通りで、加入期間が30年であれば1500万円までは税金がかかりません(http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1420.htm)。

退職所得として課税される額
(退職金-退職所得控除)÷2

退職所得控除の計算方法
20年以下    40万円×勤続年数 (※)80万円に満たない場合には、80万円
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)


フリーランスにとって面倒なのが、小規模企業共済(以下、「共済」と略します)にも同時に加入していたときの受け取り方です。共済も受け取り方を「年金」「一時金」「併用」の3つから選べます。税金の扱いもDCと同じであり、一時金として受け取るときは「退職所得」として税金を計算します。

DCと共済の受取順で税金の額が変わる

問題なのは共済とDCの一時金を受け取るタイミングによっては、「退職所得控除」の額が小さくなってしまい、多額の税金が発生する恐れがあるところです。

たとえば、共済とDCに40歳時に加入し、60歳時(加入期間20年)にそれぞれ1000万円の一時金を受け取れるとします。受取額は合計で2000万円ですが、退職所得控除は800万円(=40万円×20年)しかありません。そのために600万円(=(2000万円-800万円)÷2)が退職所得として課税されることになります。この額に対して所得税や住民税、国民健康保険の保険料がかかります。

共済とDCで受け取るタイミングをずらすとどうなるのか? たとえば、DCは60歳(加入期間20年)で受け取り、共済は65歳(加入期間25年)で受け取るとすれば、退職所得控除は800万円(DC、=40万円×20年)、1150万円(共済、=40万円×20年+70万円×5年)となります。60歳時に受け取るDCの一時金については、100万円(=(1000万円-800万円)÷2)が退職所得として課税されることになります。共済については、65歳時の一時金が退職所得控除の1150万円以下であれば税金はかかりません。

要するに共済とDCを同時に受け取ると、「退職所得控除」が小さくなるため、多額の税金が発生します。特に一時金の額が大きいときは、支払うべき税金(および国民健康保険)は数百万円にもなる可能性があります。「どうしてもまとまったお金が必要だ」という場合をのぞき、受け取り時期はずらした方がいいでしょう。

ところが、ただ受け取り時期をずらせばいいわけではありません。退職所得控除をすべて認めてもらうためには次の条件を満たす必要があります。

・DCと共済の受け取り時期は5年以上ずらす
・共済とDCの受け取る順番に注意する

受け取り時期は5年以上ずらしてください。4年以内に退職所得があった場合、2回目の退職所得控除を計算するとき、1回目の退職所得との重複期間が計算から除かれます。たとえば、40歳で共済とDCに加入し、60歳でDCを受け取り、63歳で共済を受け取ったら、共済の退職所得控除は3年分(120万円)しか認められないのです。

もし共済の一時金を先に、DCの一時金を後に受け取る場合、受け取り時期は15年以上ずらす必要があります。共済を60歳、DCを65歳で受け取ったとすれば、DCの退職所得控除は5年分(200万円)しか認められません。どうしてDCだけ不利な扱いを受けるのかと言えば、DCは受給資格が発生してから10年間は請求権があるためです。

こうした制限を考えると次のような戦略が考えられます。
(1)共済はすべて一時金で受け取り、DCはそのときの状況を見ながら一時金と年金の併用で受け取る。年金にも控除があるので、一定額以下であれば税金や健康保険料はかからない。
(2)DCの一時金を受け取り、その5年後に共済の一時金を受け取る。5年間は共済の掛金を下限まで下げておく

ただし、これらは現在の税制が継続した場合の話であって、自分が受給するときは税制が変わっている可能性があります。だから、現役世代のフリーランスであれば、現時点では「受け取り方に注意しなければならないんだ」と頭のすみにとどめておくだけでもかまいません。