配当控除の落とし穴。フリーランスが確定申告で配当控除を使うとかえって負担増になることも老後の備えで国民年金基金だけに頼るのは危険!

2013年02月21日

時代の流れは「フリーエージェントから組織人間へ!」

会社のような組織にしばられる働き方を古いものとして、フリーランスやフリーエージェントという新しい働き方を賛美する人って多いですよね。そうした人のバイブルとも言えるのは、ダニエル・ピンク氏の「フリーエージェント社会の到来」という本です。どういう中身なのかはオビを見れば一目瞭然です。

「組織人間からフリーエージェントへ!」
「すでに巨大企業の時代は終わった」
「アメリカ社会ではすでに、働くほぼ四人に一人が、なんらかの意味でフリーエージェントであるという」
「いますぐフリーエージェントを宣言し、走り出すべきなのだ。大事なのは夢をもつことではない。行動することなのだ」

では、日本で「フリーエージェント」ってどれくらいいるんでしょうか。新しい働き方を選ぶ人は増えているんでしょうか。

ダニエル・ピンク氏は、フリーエージェントは「フリーランス」「臨時社員」「ミニ起業家」という3つのタイプがあるとしています。そして、フリーランスの例としては「配管工や経営コンサルタント、トラック運転手、グラフィックデザイナー、コンピュータープログラマー……」と列挙しています。要するに企業に雇用されていない人を指すわけで、日本での自営業に近いものだと言えます。

日本はフリーエージェント後進国?

総務省統計局が実施している「労働力調査」によると、平成24年(2012年)の就業者数は6270万人、そのうち自営業主・家族従業者は739万人であるとのこと。比率にして11.8%がフリーエージェント、だいたい働いている人の8人に1人がフリーエージェントということになります(http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/index.htm)。

この数字を見ると、アメリカに比べて日本は遅れているように見えますね。アメリカは4人に1人がフリーエージェントとして自由に働いているのに、日本ではその半分にすぎません。みんな会社にしばられているのです!

…という見方は、大きな間違いです。かつての日本はフリーエージェント大国でした。下のグラフを見てください(http://www.cao.go.jp/zeicho/siryou/pdf/kikaku4kai4-3_06.pdf)。これは過去の労働力調査を元に作成されたグラフで、形態別の労働力人口の推移を表しています。

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(画像をクリックすると別ウィンドウで開きます)

グラフを見ると自営業者の比率は戦後一貫して下がり続けていることが分かります。1953年にはなんと56.5%が自営業者でした。1985年でも25.1%もあります。つまり1985年は4人に1人がフリーエージェントでした。まあ、自営業には農林漁業も含んでいるので、時代をさかのぼるほど自営業の比率が高いのは当然の話です。

しかし、農林漁業を除いても自営業率が下がっているのは確かであり、世の中は「組織人間からフリーエージェントへ!」とはまったく逆の道を進んでいるようです。確かにデザイナーやプログラマーなど高度な専門性を活かしてフリーランスとして働く人は増えているかもしれませんが、全体としてはごく一部の動きというしかなさそうです。

他の先進国も自営業率は低下している

ダニエル・ピンク氏の本では玄田有史氏が解説を書いていて、その中でも日本の自営業者が急速に減少しつつあることが触れられています。玄田氏は「農林漁業以外の分野で自営業が減少している日本は、先進国としては得意な存在である」と述べ、その要因として大企業志向や中央集権的な政治システムなどをあげています。

では、諸外国の自営業率はどうなのか。内閣府が出している年次経済財政報告の中にグラフがあります(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/pdf/p03012_1.pdf)。

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確かに日本は自営業の減り方が急ですが、他の主要先進国も減少傾向にあるのは同じです(ドイツを除く)。さらに農林漁業を除く自営業率について見ると、日本はけっして低くありません。ちなみに年次経済財政報告の中では自営業率の低下について何ページも割いて考察されているので、この分野に興味があるかたは是非ご覧ください(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je11/11p00000.html、第3章/第1節「企業活動と多様な就業形態」)。

ひとつ疑問に思うのが、ダニエル・ピンク氏はアメリカでは4人に1人がフリーエージェントだと書いているのに、このグラフだと自営業率は10%以下しかないところ。データの出所はOECDだからけっして怪しいものではないし、その差の15%はいったいなんなんだろう。たぶんダニエル・ピンク氏は「ミニ起業家」「臨時社員」もフリーエージェントの枠の中に含めているので、そこで差が生まれてくるのだろうと推測しています。

私は労働問題の専門家じゃないのであまりこの問題に深入りしたくないのですが、実感として「組織人間からフリーエージェントへ!」という大きな流れがあるようには思えないんですよね。だから、単純に「会社なんてもう古い!」なんて考えるのはどうかと思います。


でも、私はフリーエージェントという生き方は好きですよ。なんかダニエル・ピンク氏のことを悪く書いているように見えるかもしれませんが、「フリーエージェント社会の到来」は名著だと思います。そして、フリーエージェント社会が実現してくれた方がいいなと思っていますし、フリーエージェントの道を選ぶ人がいれば応援したいです。

玄田氏は解説で岡本太郎氏の言葉を引用しています。

自分は迷ったら、必ず危ない方の道を行く。だってその方が面白いじゃないか。

せっかくの一度しかない人生なのだから、迷ったときは本当に自分が進みたい道を選んだ方がいいですよね。フリーエージェントという道はけっこう危険に満ちていますが、きちんと準備をすればリスクをある程度は軽減することができます。このブログでは今後もフリーエージェントが生活で安定を得られるための情報を提供していきたいと考えています。

最後に宣伝ですが、独立を考えている人向けのコンサルティングもやっています(http://www.moneylab.jp/service.html)。


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